プロオーディオの回路に欠かせないオペアンプを動かすための両電源。
ですがオーディオ用途のオペアンプを安定動作させられる±15Vを供給できる既製品はなかなか見当たらないので自作することにしました。
まあ、既製品があったとしても自作したとは思いますが…。
電源と並行してパラメトリックイコライザーも自作しました。
イコライザー自作の記事もあわせて読んで頂けると、特に初心者の方は理解が深まるかと思います。
トロイダルトランス使用のリニア電源を作成
スイッチング電源とリニア電源(シリーズ電源)
オペアンプ用の電源としては「スイッチング電源」「リニア電源(シリーズ電源)」が候補に挙がります(ACアダプターにもスイッチング式のものが多くあります)。
スイッチング電源は、その性質からノイズが出やすく音質的に不利です。
わざわざスイッチング電源を使うのであれば完成品を利用したいところですが(DIYの手間を省くくらいしかメリットがない)、そもそも15Vの両電源というのがなかなか見当たりません。
という訳で悩むことなくリニア電源を採用しました。
リニア電源(シリーズ電源)のパーツと仕組み
リニア電源のパーツと仕組みを大雑把に解説すると以下になります。
- トランス :家庭用の100V電流を任意の電圧まで下げる
- ダイオード:交流電流を直流に変える(整流)
- コンデンサ:きれいな電流に整える(平滑)
- 三端子レギュレーター:出力したい電圧に一定化
こんな流れです。
スイッチング電源は交流電流のまま整流・平滑します。
最終的な電圧の調整時にスイッチを高速でオン・オフすることからこの名前が付いているようです。
で、実際に購入したのは以下です。
- トランス:Block トロイダルトランス RKD 30/2×18
- ダイオード:ショットキーバリアダイオードブリッジ
- コンデンサ:オーディオ向け電解コンデンサ、フィルムコンデンサ数点
- 三端子レギュレーター:NJM7815FA、NJM7915FA
- ポリスイッチ(ヒューズ)、ターミナルブロック、ACインレットなど
整流以下の回路はネットの情報やデータシートを参考にそんなに悩むことなく決定したのですが、トランスの選定には苦労しました。
それぞれ見ていきましょう。
Block トロイダルトランス RKD 30/2×18
オーディオ用途で使用されるトランスにはメジャーなものだと「EI・EERコア」などの最もポピュラーなもの、高級オーディオで見かけるドーナツ状の「トロイダルコア」、さらにマニアックな「Rコア」あたりでしょうか。
それぞれにメリットやデメリットもあるようですが、入手のしやすさと音質の評判からBlock社のトロイダルトランス「RKD 30/2×18」を選びました。
両電源をつくるので正・負用にふたつ出力があるものが必要です。
二次側のAC出力18Vを選んだ理由は、整流すると AC18V×1.41=DC25V程度で、これがラインナップの中で目標出力のDC15Vに近かったからです。
では余裕を持ってできるだけ高い電圧にすればいいのかというとそういうわけでもなく、レギュレーターで降圧した電圧は熱に変わってしまい、その熱が高いほど機器の動作に影響が出たり素子の寿命に関わってくるので、なるべく電圧差をなくしたいところです。
それならAC12Vや15V出力のものを選んだほうがいいのですが(整流後17V、21V程度)、定格一次電圧が「115V」となっており、「100Vで動かすと出力も15%くらい落ちるのでは」と思い、だいぶ余裕をもって18V出力のものを選びました。
三端子レギュレーターの定格電圧も78、79シリーズは±35Vまでなので問題なさそうです。
ちなみにこのトロイダルコア、一次電圧100VでもしっかりとAC18Vを出力してくれました。
ですが、個体差や環境による違いがあるかもしれませんので、電圧は余裕をもって選んでください。
整流後の定格電流は?
二次電流の記載がないですが定格電力が30VAなので、30VA÷(18V×2)で約830mA。
オペアンプひとつにつき多くても10mA前後の電力消費なので相当余裕がありますね。
トランスの音質
他にもっと安いトランスもある中で本製品を選んだのは、Block社のトロイダルの音質に定評があるからです。
Rコアの音質の評価は高かったのですが基本的にオーダーメイドのようで、いいものが見つかりませんでした。
そのうち、EIトランスや Rコアの音質も比較したいですね~。
ショットキーバリアダイオードブリッジ D15XBN20
トランスで降圧した交流電流を整流するのがブリッジダイオードです。
ダイオードブリッジにはP型・N型半導体の一般的なダイオードが使用されるのですが、どうも音質にアドバンテージがあるようなのでショットキーバリアダイオード(SBD)なるものを選んでみました。名前もカッコいい…
今回のような計36Vくらいの電圧ではあまり問題にはならなそうですが、SBDブリッジは高電圧には使いづらく、発熱や漏れ電流の問題が起きやすいようです。
購入したのは新電元のD15XBN20。逆電圧200V、順電流15Aのものです。
これは使用上超えてはいけない数値なのですが、当回路でこんな電圧や電流が流れることはないですし、定格の数値が大きくて問題になることはないので奮発してこれにしました(奮発と言っても300円くらいですが)。
また、ダイオードブリッジに比べて漏れ電流が大きくなりがちなSBDブリッジの中で、最大5μAと極めて低い数値だったのも理由です。
この漏れ電流が原因で機器が故障することもあるようなので、数値は小さいほどいいでしょう。
コンデンサと三端子レギュレーター
次は直流電流を平滑するコンデンサと、電圧を±15Vに一定化する三端子レギュレーターです。
図はNJM7815を使った定電圧回路図です。
コンデンサについて
C1が平滑用の、C2は位相補償用の電解コンデンサです。詳しくはNJM7815のデータシートをご覧ください。
コンデンサは「ニチコンKZ・FG・KW・MW」「東信工業 Jovial UTSJ」あたりのオーディオグレードの電解コンデンサを購入しました。
コンデンサの容量は「C1:0.33μF」「C2:0.01μF」以上がメーカー推奨値ですが、より大きい方がノイズ減少や応答性の向上が見込めるようです。
「いい音が出る数値」については諸説あるようですが、複数のものを試して自分の耳で判断したいところです。
私はネットや書籍を参考に「C1:2200μF」「C2:470μF」にしましたが、いろいろなメーカーや容量のコンデンサを付け替えて音の変化を楽しみたいと思います。
- 電解コンデンサは極性があるので、繋ぐ際は+-の向きに注意してください。
間違えると最悪、中の溶液が漏れ出て危険です。 - 正電源側と負電源側ではコンデンサを接続する向きが逆転します。
間違えやすいのでご注意を。 - 電源を切ってもしばらくの間、コンデンサには電気が蓄えられています。
感電にはくれぐれもご注意ください。
三端子レギュレーターについて
三端子レギュレーターはJRCの「NJM7815FA(正電圧用)」と「NJM7915FA(負電圧用)」です。
発熱する素子なので、合わせて放熱器(ヒートシンク)と放熱シートも購入しました。
私は15Vを出力したかったので本製品を購入しましたが、9V~24Vなどよく使用される電圧を出力するものや、電圧を任意の値に調節できるものもあるので、欲しい電圧に応じて購入してください。
例えば、+9Vなら「NJM7809」など、電圧を調節したいなら「可変三端子レギュレーター」です。
どの端子に何を繋げばいいのかは製品のデータシートを必ず確認してください。
- 両電源を作る際は正負2種類の三端子レギュレーターを購入してください。
- 同じメーカーでも正と負では入力・出力端子の並びが違います。
間違えて接続すると発煙・発火の危険があります。 - 可変三端子レギュレーターの場合は可変抵抗等を接続する必要があります。
購入パーツまとめ
電源回路作成に必要な最低限のパーツをまとめておきます。
購入の際は予備として少し余分に買っておくのがおすすめです。
意外と簡単に壊れたり紛失するので、そうなった場合に作業ができず時間や送料が無駄になるからです。
トランスはともかく、たいていの素子は数十円~せいぜい数百円。保険料としては安いのではないでしょうか。
用途 | スペック・注意点 | 個数 | |
---|---|---|---|
トランス | 交流の降圧 | ・整流後に欲しい電圧以上~35V以下になるもの ・両電源の場合は出力が2つのもの | 1 |
ブリッジダイオード | 整流 | 1 | |
ダイオード | レギュレーター保護 | 2 | |
電解コンデンサ | 平滑 | 2 | |
異相保障 | 2 | ||
フィルムコンデンサ | 4 | ||
三端子レギュレーター | 定電圧・正電圧用 | 欲しい電圧のものか、可変タイプを選ぶ ・正電圧用のもの | 1 |
定電圧・負電圧用 | ・欲しい電圧のものか、可変タイプを選ぶ ・負電圧用のもの | 1 | |
放熱器(ヒートシンク) | レギュレーターの放熱 | 2 | |
放熱シート | レギュレーターの放熱 | 2 | |
ポリスイッチ(ヒューズ) | 二次側のヒューズ | 2 | |
ACインレット | 電源ケーブルとトランスを繋ぐ | 三芯のものがおすすめ | 1 |
回路図と解説
- Fuse1:1.5A~2A 程度
- D1:ブリッジダイオード
- C1, 2:2200μF(電解、向きに注意)
- C3, 4:0.1μF
- C5, 6:470μF (電解、向きに注意)
- C7, 8:0.1μF
- Fuse2, 3:1A 程度(ポリスイッチ)
トランスの接続について
初めて電源を作る方は、回路図だけでトランスの繋げ方は分からないと思います。
しかも接続を間違うと事故が起きかねない怖いパーツです。
実際、誤った繋げ方をしたところ、トランスがバチバチと音を立てて高熱を発しました。
何やら少し焦げた匂いもして危険を感じたほどです(一次側に大電流が流れていたようです)。
それでは私の買ったトランスを例に繋ぎ方を見ていきましょう。
このトランスであれば、一次側は青と紫が 0V、白と茶色が AC115V。
二次側は黒とオレンジが 0V、赤とグレーが DC18Vです。
一次側の接続から見ましょう。
青と紫(0V)を並列にしてインレットの「N」に、白と茶色(AC115V)を並列にして「L」に接続します。
インレットのアース端子は後にケースに繋ぎます。
分かりやすいように画像では直結にしていますが、インレットとトランスの間にはヒューズを入れてください(次の段落で解説します)。
この画像は見本なので芯線がむき出しとなっていますが、実際にはハンダ付けをして絶縁カバーを被せる等の処理をします。
次は二次側です。
黒(0V)が負電源、グレー(DC18V)が正電源。
そしてオレンジ(0V)と赤(DC18V)を束ねてGNDに繋ぎます。これでGNDになるんだから不思議ですよね。
この画像も見本なので芯線がむき出しです。コワイコワイ…
以上、これで回路図どおりの繋ぎ方になりました。
ヒューズの選定について
ヒューズの選定ですが、使用電流の 1.5~3倍程度のアンペアのものを選ぶといいようです。(参考リンク)
今回の回路の使用電流は二次側が 0.8A程度なので、Fuse1は2A、Fuse2, 3は1.5A前後で大丈夫でしょう(二次側電流は一次側の6割程度なので)。
Fuse2, 3は「ポリスイッチ」というヒューズです。
一般的なヒューズは過電流が流れると切れて絶縁しますが、ポリスイッチは電流が流れにくくなることで安全装置として働きます。
前者は切れると以降は使えなくなるのに対し、ポリスイッチは時間が経てば元通り電流を通します。
繰り返しになりますが、ヒューズは無くても動作しますが、安全のための最後の砦なので必ず付けましょう。
かく言う私も最初はヒューズを付けずに作業をしたクチですが、接続を間違えてトランスを燃やしかけ、レギュレーターを発煙させてしまいました。本当に簡単に発火します。
組み立て作業中ならまだしも、ケースに入れて使用してしまうと異常があってもなかなか気づけません。
コンデンサについて
C1, 2, 5, 6の電解コンデンサは取り付けの際の極性(正負)に注意なのですが、正電源側と負電源側で向きが反対になります。
経験が浅いとパッと見は同じに向きに見えますが、負電源はGND側に+を繋ぎます。
極性のあるダイオード(D2, 3)についても同様、正電源側と逆向きになります。
コンデンサ、とくに電解コンに関しては、音質的に実力を発揮するにはエージングが必要みたいです。(オペアンプなどもそのようです)
本記事の執筆時点ではまだ実験していませんが、ネットの情報を見ると多くの方が「エージングしていないと酷い音」と言っていますね。
エージングは 100時間以上、定格に近い電圧で行うのが望ましいようです(実際に使用する電流・電圧でエージングすべき、という説も)。
また電解コンデンサは、ハンダ付けの熱でダメージを受けるのですが、印加することで修復するようです。
これもエージングで音が良くなる理由でしょうね。
ちなみに、電解コンデンサにわざわざパラレルで0.1μFのコンデンサを繋いでいるのは、大きい容量のコンデンサは低い周波数のノイズを吸収するのに対し、容量の低いコンデンサは高い周波数のノイズを吸収してくれるためです。
ブリッジダイオードの接続
これも初めて触る方には分かりにくいので。
②と③にトランス二次側の出力を接続したら①から+の電圧、④からーの電圧が出力されます。
簡単ですね。
簡単とは言え、極性間違えは事故の元なのでお気を付けを…。
当然ですが、電圧はちゃんとトランス出力の 1.4倍になっていました。
さいごに:作ってみた感想
トランスの繋ぎ方や電圧の計算等、専門外なので最初は苦労しましたが、出来上がってみると「こんなにシンプルな回路で両電源が作れるんだなぁ」と感心しました。
単電源や低電圧の両電源でオペアンプを動かしたときのような動作不良やノイズもきれいさっぱり無くなって非常に満足しています。
さいごに、繰り返しになりますが、家事や感電にはくれぐれもご注意ください。
特に電源は、接続や定格の数値を間違っていると簡単に発煙・発火・故障します。
私は電源を動かしながら作業をするときは、念のためゴム手袋を付けて作業しています。
とは言え過度に怖がらず、安全に楽しく電源制作を楽しんで頂ければと思います。
設計通りの電圧が出力されて回路が正常に動作したときは最高に嬉しいですよ!
こちらの記事で電源ボックスのケース加工をしました。やっぱりケースに入ると達成感が違いますね!