オーディオ

コンプレッサー/リミッターの自作と仕組み【VCAタイプ】

「自分の作った機材でミキシングをしたい!!」

ということで、パラメトリックイコライザーの制作に続きコンプレッサー/リミッターを自作しました。

イコライザーはまだしも、プロオーディオのコンプの自作記事って本当に見当たらないので、情報収集から回路の作成まで数か月かかってしまいました。

例えば「リミッター 回路」でネットを検索するとある程度情報が出てきますが、コンプの必須パラメーターの「レシオ」が無いものがほとんどです。
まあ「リミッター」なのでレシオは必要ないのかもですね。

そこで今度は「コンプレッサー 回路」などで検索しても、出てくるのはギターエフェクターのコンプの情報ががかろうじて、という感じです。それもパラメーターが「アタック・サスティーン」のみとか。

後はエアーコンプレッサー回路の記事だったり(笑)
歪み系のエフェクター記事はけっこうヒットするんですけどね…。

この記事がこれからオーディオDIYを始める方の一助になれば幸いです。

私は電気の知識においてはアマチュアですので勘違いや間違った情報も含んでいるかもしれません(もちろん正確性を高める努力はします)。

月並みですが、本記事を参考にした機材の自作によって発生した事故・損害については自己責任、動けばOKというスタンスでお願いいたします。

自作コンプレッサー/リミッターの簡単な仕様

コンプ/リミッターの簡単な仕様は以下です。

  • Ratio:~20以上:1
  • Attack Time:5ms
  • Release Time:~ 4s
  • Threshold:不明

不明ばかりでスミマセン、分かり次第追記していきます。

自作コンプ/リミッターは「レシオ・アタック・リリース・スレッショルド」を操作できる仕様にしました。
特に変わったところもなく、レコーディング機材では定番のパラメーターですね。

コンプレッサー/リミッターの自作に必要なもの

それではコンプ/リミッターの自作に必要なものを見ていきましょう。
ちなみに今回もESPの回路図をまるパクリ参考にしました。

参考:「ESP:Fast Audio Peak Limiter

ざっくりとこのくらいですね、重要なものを簡単に解説します。
抵抗器やコンデンサなどはパライコ回路の記事のものをご覧ください。

オペアンプ

このコンプ/リミッターはオペアンプでゲインの増幅と信号の検出をします。

TL072が推奨されていますが、ぶっちゃけオーディオ用のオペアンプならたいていのものは作動します。
しいて言うならJFETを使用した高速オペアンプであれば安心といったところでしょうか。

JFET(Nチャネル型)

JFETとは接合型電界効果トランジスタ(Junction Field Effect Transistor)の頭文字をとったもので、つまりはトランジスタのことです。
トランジスタという単語は、オーディオに詳しくない方でも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

トランジスタについて詳しくは割愛しますが、JFETの本回路での役割としては「電圧で電流(音声信号)を制御する可変抵抗器」です。
簡単に言うと音声信号(から作った制御電圧)と電源電圧を使って、音声信号にコンプ/リミッターがかかる程度をコントロールするというもの。

ただ、本回路で推奨されている「2N5459」は廃盤となっており、なかなか入手が難しいかもしれません。

私は秋月で手に入る「2N5457」と「2SK2881」を試しましたが、2N5457ではうまく動作せず 2SK2881を採用することにしました。

その際、R5の抵抗を外すと作動しました。
このあたりの理由はよく分かりませんが、データシートを見るにゲート・ドレイン間の定格電圧がマイナスになっているのが関係しているのかもしれません(2N5457はプラス電圧になっています)。

JFETにはNチャネル型とPチャネル型がありますが、本回路ではNチャネル型のものを選んでください。

両電源

オペアンプを動かす電源は「±15V程度の両電源」を使用するのが理想です。

電圧にも正と負・プラスマイナスがあり、その両方を供給する電源を両電源と言います。
今回の用途に向いている定番のオペアンプは、±15V程度で安定動作するものが多いです。
(購入前にオペアンプのデータシートをご確認ください)

肝心の両電源にはどんなものがあるかというと…、完成品はあまりないのが実情です。

下のようなスイッチング電源もちょっと電圧が足りなかったりします。
(下記商品は「出力電圧を約10.0V~13.5Vの間で無段階調整可能」とのこと。惜しい!)

オペアンプのデータシートを見る限り13.5Vでも問題なく動作しそうですが、やはりオーディオ用途なので、ただ電気を供給できればいいという訳ではありません。
適正値のきれいな電気…できる限りこだわりたいですよね。

電圧を昇圧して供給するユニットもありますのでいちおうご紹介。
上記のスイッチング電源と組み合わせれば±15Vの供給が可能ですが、そこまでするなら一から電源を作った方が良さそうかな。
すでにAC/DCコンバーターを持っているならアリかもしれません。

という訳で電源も自作しました。こちらの記事で解説したいと思います。

トロイダルトランスで両電源を自作【プロオーディオDIY】 プロオーディオの回路に欠かせないオペアンプを動かすための両電源。 ですがオーディオ用途のオペアンプを安定動作させられる±15Vを...

電源を外付けにするメリットは、ノイズ対策・コスト削減・省スペース化といったところですね。

商用機材がアダプターなどの外部電源だと非常にがっかりしますが(苦笑)、自作の場合は電源を外部に置くのは非常に都合が良いです。

一般的にACアダプターは音質面で不利とされています。
上記の電源はアダプターではないですし、音質面でも非常に優れていると感じます

ダイオード

コンプ/リミッター回路に欠かせないダイオード。

役割については「ダイオードがある理由は?」をお読みください。

VUメーター

コンプと言えばVUメーターがつきもの…ですが、この記事を書くまですっかり忘れていました。
現在VUメーターにも着手しているので、形になったら記事にしたいと思います。

回路図と各種パラメータの仕組み

それでは回路のどこがどう作用してコンプ/リミッターとして作動するのか解説したいと思います。

注意点として、できる限り簡単に説明してはいますが、電気の基礎知識が多少は必要です。

また、可能な限り動作や数値の確認を行ってはいますが、コンプレッサーの回路的な仕組みを解説しているサイトや書籍は少ないのですべての裏付けは取れていませんし、私も電気のプロではないので間違っている可能性も高いです。

以上を念頭に、参考程度にお読みいただければと思います。

回路図について

肝心の回路図ですが、今回もESPの「Fast Audio Peak Limiter」の図2を まるパクリ 参考にしました。
著作権が気になるので掲載は控えますが、近々モディファイしたものの回路図を載せようと思います。

ESP:Fast Audio Peak Limiter」 の図2を別ウインドウで開きながらお読みください。

レシオ(Ratio)

レシオは日本語で「比率」のことで、その名のとおり音声の圧縮率を設定します。

例えば「レシオ4:1」であれば、スレッショルドを超えた部分を1/4に圧縮するというものですね。

ESPの回路どおりに作るとリミッターとなり、レシオは(おそらく)20:1で固定となります。

レシオを可変にしてコンプとしても使用したい場合、R12とR13の間にボルテージフォロワ回路と20K程度の可変抵抗を入れてやります。(下の図)

ボルテージフォロワ回路をリミッタ回路に入れることでコンプになる
雑な図でスミマセン!

ボルテージフォロワはオペアンプの反転入力端子と出力端子をショートさせるだけです。
これによって Vout が可変抵抗(VR)で増減しても Vinと同じ電圧になるように Voutを調節してくれます。
この結果、圧縮率・コンプの強さが変わります。

レシオの計算方法については調査中です。

スレッショルド(Threshold)

コンプ/リミッターは音声信号のレベルがスレッショルドの値を超えたときに作動、音声の圧縮をします。
音の大きさの上限を決めるパラメーターですね。
日本語だと「しきい値」です。

そのスレッショルドの値はVR1で調節するのですが、具体的には JFETのソース(S)にかかる電圧を調節しています。

回路図を見ると、+15Vを R4を通ってソースに供給していますね。
この R4と VR1が分圧回路となっており、VR1を調節することでソースにかかる電圧が変化します。
この電圧こそがスレッショルド電圧(しきい値)となります。

(コンプ/リミッターのパラメーターのスレッショルドは、単位が「デシベル(dB)」なのでまた別のものかもしれません)

このスレッショルドを超えた音声信号にコンプがかかるわけですが、その音声信号は制御信号(コントロール電圧)となってゲートに流れてきます。
こうしてゲートにかかる制御信号の、スレッショルド電圧を超えた音量(電圧)にコンプがかかるという仕組みです。

ちなみにこの回路ではVR1を抵抗0に近づけるといちど音が消えて、少し間を開けてからコンプのかかった音が出てきます。
オペアンプが音声信号の変化を感知してフィードバックをかけるため、という気がしますが、こうなる理由は不明で解決策を探しているところです。

VR1の抵抗が0になると完全に音が出なくなります。
これは分圧回路の計算をすれば分かりますが、片方の抵抗値が0になるとソースにかかる電圧も0になり、JFETがOFFになるためです。
この消音が気になる方はVR1の前に抵抗を入れてやれば解決します。

スレッショルドをdBで表す計算方法は調査中です。

ゲートにはマイナスの電圧が必要?

ちなみにJFETではゲートにマイナスの電圧をかける必要があります。
ですが本回路では両電源を使ってはいるものの、マイナスの電圧を印加しているようには見えません。

ではどこからマイナス電圧を取っているのかと言うと…。

ゲートへの電圧とは、具体的には「ゲート・ソース間電圧」のことで、ゲートにかかる電圧がソースから見て低い電圧であればいいということ。

これはつまり、ソースにかかる電圧がゲートにかかる電圧より高ければ、ゲートにはマイナスの電圧がかかっているということになります。相対的に見るんですね。

ソースにかかる電圧はVR1の抵抗最大値でおよそ7.5Vとなります(Vout = Vin × VR1 / (R4 + VR1) )。
VR1の抵抗値を下げていき、ソースの電圧がゲートの電圧(制御信号・コントロール電圧)を下回り始めると、しきい値電圧を超えた部分が圧縮されて、ふたたびゲート電圧がソース電圧未満に調節されます。

アタック・リリース(Attack・Release Time)

コンプ/リミッターのかかり始めるのがアタック、解除されるのがリリースですね。

このアタック・リリースタイムというのはコンデンサの充電(アタック)、放電(リリース・ディケイ)の時間に関係があるようです。
電気の世界では常識かもしれませんが私は驚きました。

下の画像はコンデンサの充放電回路です。
R1にスイッチすると充電、R2にスイッチすると放電されます。
このとき抵抗値が大きいほど充放電に時間がかかります。

コンデンサの充放電回路

ESPのリミッター回路図を見ると、たしかに充電用のR13は信号の経路にありますし、放電用のR11は接地しているので納得です。

本回路ではR13とC5でアタックタイムを決定しており、計算式は R13×C5で約5msです。
このままではアタックタイムが固定なので、R13を可変抵抗にするとアタックタイムが可変となり、音作りの幅が広がりますね。

リリースタイムは R11×C5…だと思うのですが、ESPの解説では「約1秒」となっており、計算が合いませんね。
R11×C5は3.9秒です。

ただ4秒というのは、コンプの最大リリースとしてよくある値なので、間違っているわけでもないのかなと。

ダイオードがある理由は?

ところでD1、D2のダイオードは何のためにあるのでしょう?

理由のひとつに、このダイオードは先ほどのR13、R11、C5と組み合わせた「ピークホールド回路」の形成があります。

ピークホールド回路
ピークホールド回路の例

この回路にどんな役割があるのかというと、ピークメーターを正常に作動させるためです。音声信号(電圧)のピークを一定の間保持していないとメーターがピークを読み取れないんですね。
そのピーク電圧を保持するが画像C1のコンデンサで、R1は放電のための抵抗です。
(電圧が下がると放電するということは、リリースタイムにも影響が出てしまいそうです)

ダイオードは入力電圧が上がったときにのみコンデンサに充電し、電圧が下がっても放電しないようにする役割があります。

VUメーターのみを付けようかと考えていましたが、せっかくなのでピーク表示もできるようにしたいと思いました。

また、オペアンプの出力に容量の大きいコンデンサを繋ぐと発振しやすいため、発振防止の役割もあります。
試しにD2を外してみたところ、コンプがかからないどころか音が歪んで、しまいにはU1Aが焼けかける始末。
しっかりと発振して香ばしい香りを堪能できました。

最後に、ダイオードには「整流」の役割もあるのですが、これは次で解説したいと思います。

ちなみにこのダイオードの種類でもコンプの音質が変わるので、ぜひいろいろなダイオードを試してみてください。

私は秋月電子で「1N4007」「1N4148」を購入してみました。
「ダイオードと言えばとりあえずこれ」の「1N4007」ですが、これは比較的原音に忠実であっさり・パンチのある音。
スイッチングダイオードの「1N4148」は甘くて深めなコンプ感のある音でした。

私は未実施ですが、LEDも使えます(ダイオードなので)。
歪みエフェクターでLEDを回路に入れるのはよく知られた手法ですが、コンプでは良い結果が出ないという声もありますね、機会があれば試してみようかな。

なぜ U1Bで反転増幅しているのか?

回路図を見てみると、U1Aの出力信号をU1Bで反転させてR13の手前で元の出力に加算しています。

なぜわざわざこんなことをしているのかというと、D2を通る信号は半波整流されてしまい、交流信号のマイナス側がカットされてしまうからです。

ですので、U1Aの出力信号のマイナス側をU1Bでプラスの信号に反転させて、半波整流したものをD2を通った信号に加算し、よりロスの少ない音声信号にしているという訳です。(たぶん)

ただ、U1Bの反転回路が無くても動作に支障はありませんし、聴感上は特に変化を感じませんでした。
上記の裏付けのため、オシロスコープで波形の確認をしたいところです。

さいごに:自作コンプの感想など

冒頭でも述べたとおり、コンプ/リミッター回路の解説をしている記事や書籍は非常に少なく、ここまでたどり着くのにそれなりに苦労しました。

ですが分からないなりに情報を探したり、仮説を立ててトライアンドエラーをすることで私自身ずいぶんレベルアップしたように思います。

肝心の自作コンプの感想ですが、自然なかかりでダイナミクスをしっかりと抑えてくれますね。音の引っ込みも気になりません。
強くつぶしても音が破綻することなく音楽的で、聴いていて心地の良いコンプです。
このクオリティがDIYで出せるなら、もう高級機をお金を出して買う必要はないかな…。

コンプの音色は素子、特にダイオードで激変するので、スイッチでダイオードを切り替えてキャラクターを変化させられるようにしても面白そうです。

追加で必要なのはバイパス機能と、メイクアップゲインですかね。
コンプで音量が下がった後に出力音量を上げられないのは不便です。

改善点はノイズが多いところですね、けっこうなレベルでノイズが乗っています。
U1Aの増幅率を下げたり、ケースに入れることで多少はマシになるかもしれません。

とりあえず以上です。
まだ未完成かつ不明な点も多いので、発見があり次第記事のアップデートをしていきます。