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DI(ダイレクトボックス)の役割と作り方【作り方解説編】

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前回の記事ではDIの役割を解説しましたので、この記事では作り方を見ていきたいと思います。

DIにはトランスを使うパッシブタイプ、オペアンプを使うアクティブタイプがあることも述べました。
本記事では両タイプの作り方と、トランジスタとトランスを使用したDIの作り方も解説します。
DIの製作は比較的シンプルなので、初めての機材製作にはうってつけです。
ですがEQなどと違い音色の変化でごまかしが効かないので奥が深い機材でもあります。

私は電気の知識においてはアマチュアですので、勘違いや間違った情報を含んでいるかもしれません(もちろん正確性を高める努力はします)。

月並みですが、本記事を参考にした機材の自作によって発生した事故・損害については自己責任、動けばOKというスタンスでお願いいたします。

自作するならまずはパッシブDIがおすすめ

もしあなたに機材製作の経験が少なかったり、初めてDIを作るということであれば、私はパッシブタイプをお勧めします。
タイプによる音質的な優劣はないのですが、自作するとなるとパッシブの方が圧倒的に楽なうえに、音質の良いものが簡単に作れます。

その点アクティブタイプは素子の選別や部品点数の多さから一定以上のクオリティを出すのが難しくなります。
電源を使うのである程度の知識が必要ですし、神経も使います。

DI製作に必要なもの

まずはDI製作に必要なものを見ていきましょう。

工具に関しては、回路の組み立てにはニッパーとピンセットがあればいいのですが、ケースの組み立てには多数の工具が必要になってきます。
下記の記事が役に立つかと思います。

電源ボックス アルミケース加工
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肝心の素子については抵抗、コンデンサ、コネクタ類、トグルスイッチ、線材、基板など。
パッシブならトランスが、アクティブならオペアンプやトランジスタ、ダイオードが必要です。

その他、電源ランプが必要であれば発光ダイオードを適宜ご準備下さい。

また、下の記事を併せて読むとより良い音のDIを製作できると思います。

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パッシブDIの作り方

まずはパッシブDIの作り方です。

何よりも肝心なのはトランスです。このトランスで音質がほとんど決定されてしまうので、ここをケチって安物にしないようお願いします。

おすすめのトランス

おすすめのトランスはNeve系の機材で定番中の定番「OEP A187A10C」です。
ヨーロピアンな、しっとりとした音色です。
こういった部品は海外で注文しなければならないことが多いのですが、OEPはモノタロウで安価に手に入るのが嬉しいですね。

OEP トランス
OEP A187A10Cを使ってDIを製作

もうひとつのおすすめはJENSENの「JT-DB-E」ですが、 いつ見ても品切れですね。あるところにはあるのかもしれませんが。
こちらはロックサウンドで定番のAPIに使用されており、明るいアメリカンな音色です。
Radialの定番DIにも使用されていますね。

Radial ラジアル パッシブDIボックス JDI
created by Rinker

パッシブDIの回路図

パッシブDIの回路図がこちら。

A187A10C データシートから借用
OEP A187A10C データシートから転載

どうでしょう、簡単そうですよね。
インプットのフォンジャックのホットをA1、GNDをA4に繋いで…とやっていくだけ。
上図はA187の回路図ですので、他のトランスを使う場合は端子が変わってくるのでご注意を。

もし自宅でのみ使う場合は、GNDリフトを外してしまっても問題ないかと思います。
これはグランドループ対策のためにあるのですが、小規模な環境では必要ない場合がほとんどでしょう。

素子が少ない方が作るのが楽で、コストもかからず、何より音が良いですからね。

パッシブDIの注意点

トランスを利用するとその性質上、出力レベルが下がりますが、ミキサー側でレベルを稼げばいいので特に問題はないと思います。
そういった理由でPADが必要になることも少ないのではないかなと。
必要であればアクティブDIの回路を参考に追加してみてください。

また、入力インピーダンスが140KΩですので、特にベースで使用する際は入力インピーダンスが低くてハイ落ちしてしまうかもしれません。
私の手持ちのジャズべでは問題ありませんでしたが、その場合は別途回路を追加する必要があります。
追加回路については後述(トランスを使用したアクティブDIの作り方)します。

パラレルアウトが無いのも都合が悪い方は多いと思います。
入力フォンジャックに直接パラアウトのジャックを繋げば良さそうですが、このやり方ではパラアウトの音質が激しく劣化してしまうのでお勧めしません。
手間はかかりますが、この場合も後述の「トランスを使用したアクティブDIの作り方」をご検討下さい。

アクティブDIの作り方

ディスクリートオペアンプを使用したアクティブDI
ディスクリートオペアンプを使用したアクティブDI

次にアクティブDIの作り方を見ていきます。

パッシブにくらべて使用する素子の数が大幅に増えるので、製作の難易度が高くなりますが、お気に入りの抵抗やコンデンサ、オペアンプを使って自分の好みの音に仕上げられるのがアクティブタイプ自作の楽しいところだと思います。

アクティブDIの回路図

一般的な、オペアンプを使用した回路図についてはESPの「Direct Injection Box for Recording & PA Systems」をご覧ください。
(パッシブDIの回路図もこちらに掲載されています)

ESPのものはパラアウトのジャックをインプットジャックに直結していますが、前述のとおりこれは音質の劣化が酷いのでお勧めはしません。

ただ、個人的にESPのものをそのまま使うのはおもしろくないので、オペアンプまで自作するディスクリート・アクティブDIの回路図をご紹介します。
製作にはそれなりの労力を要するうえに、安定した音質にするのが大変ではありますが、ハマればパッシブタイプ以上に太い音が出せます。

ディスクリート・アクティブDIの回路図と解説

まずはオペアンプから。

自作DI用のディスクリートオペアンプ

Tr1~3による差動増幅回路でHOT(+出力)とCOLD(ー出力)の信号を出力します。

R1によって入力インピーダンスは1MΩ。
今回はファンタムを使った単電源なのでR3、R8によるバイアス回路が必要になります。

Tr1の利得が大きかったので、R11で小さくしています。5k8という値は厳密なものではなく、手元にあった素子でパッと聞いた感じで選びました。
今回は音量を増幅したくなかったのでR11を付けましたが、利得があっても構わない場合は取ってしまってもOKです。むしろその方が音はより良くなりそうです。

Tr4、5はエミッタフォロワという回路です。
Tr1、2から出力される信号はハイインピーダンスなので、エミッタフォロワでローインピーダンスの信号にするというものです。

トランジスタはそれぞれJFETにしても動きます。
Tr1、2とTr4、5は基本的に同じものをペアで使用するのが良いかと。

このトランジスタがDIの心臓部ですので、いろいろな組み合わせを試してみて下さい。深~い沼が待っていますよ(笑)

ではDI全体の回路図を見てみましょう。

自作Active DIの回路図

可能な限りシンプルにしました。特に変わったところはありません。
私の環境では、自作のオペアンプでは電圧が10V程度になりました。トランジスタの耐圧との兼ね合いもありますが、電圧を上げたい場合はR4、5の抵抗値を低くしてください。

C1と、オペアンプのコンデンサは耐圧63V以上を推奨です。

PADとパラレルアウトについて

個人的には不要なためPADとパラレルアウトは実装しませんでしたが、組み込むとすれば以下を参考にしてください。

自作アクティブDIにPADを追加した回路図

PADはR1の直後にR7とスイッチを追加します。抵抗分圧回路ですね。
R7は1kとしていますが、1kとちょっとで-20dBくらいになると思います。
PADをONにした場合、入力インピーダンスが下がるのでギターやベースはハイ落ちします。
キーボードなどのローインピーダンス出力で、かつ出力レベルが下げられない機器を繋ぐときに使用する感じですね。

自作ディスクリートオペアンプにパラレルアウトを追加

パラアウトはオペアンプのTr1直前にTr6、R12、C5を画像のように追加します。
実装していないので動作確認はできていませんが動くはず…!
トランジスタを追加することで電圧が下がる可能性があります。その場合はDI回路図のR4、5の抵抗値を低くしてください。
(追加したトランジスタはNPNですが、PNPにした方がベターかもしれません)

余談ですが以前R4とTr1の接合部からパラアウトを取ったことがあります。
音質的には非常に優れていたのですが、DIを組み立てる過程で数回オペアンプが壊れてしまいました。
回路の問題なのか、組み立て時のミスなのか…もう一度実験する気力はありません。
音の純度は下がりますが、トランジスタを追加するほうが安パイでしょう。

アクティブDIに関しては以上です!

トランスを使用したアクティブDIの作り方

楽器をトランスに直結するパッシブDIのほうが、音の純度という意味では優れていますが、パラレルアウトを追加したい場合、アクティブ回路を組み込む方がパラアウトの音質は良くなります。

ではそのDIの回路図ですが…回路図を書こうと思いましたが、サイトのリンクを張るにとどめておきます。わざわざ自分で書かなくても、ほとんど同じですからね。

DIY DI Box. Active Direct Injection at its best.

ちなみに、私はQ2と3.9kのコレクタ抵抗を外しています。
Q1とQ2を直列にすることで電流を増幅できるのですが(ダーリントン接続)、正直Q2は無くても大丈夫なんですよね。
数値的に見ていくとダーリントン接続のほうが優れているかもしれませんが、聴感上は明らかにトランジスタひとつの方が音が良かったです。
この場合、電圧が15Vよりも高くなる可能性があるので、トランジスタの耐圧(の1/2)を超えないようにDI回路図のR4、5を調節してください。

おわりに

DI自作の解説は以上です。

DIの自作に取り組んだきっかけは、友人からの依頼でした。
最初は「DIなんてシンプルな機材、素子の選定さえ間違わなければ簡単にできるでしょ」となめてかかっていました。

しかも「市販のオペアンプを使うのはつまらん、やるならディスクリートだ!」などど、手間と労力の割に、トランスを使ったDIとそれほど音質差のないアクティブDIの完成までに、1年近くを費やすこととなりました。
そういう訳ですので、繰り返しになりますが、経験の浅い方はまずはトランスを使ったDIから自作することを強くお勧めします(笑)

ただ、この遠回りのおかげで実装の技術や素子の知識はかなり身につきました。今後、他の機材を作るにしても、ある程度音質を狙った方向に実装できる自信はあります。

本記事の完成をもって、DI製作の肩の荷を下ろしたいと思います。