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DI(ダイレクトボックス)の役割と作り方【役割解説編】

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最近演奏仲間に「DIって何するものなんですか?」とか聞かれたので役割を簡単に説明したのですが、自身の理解に曖昧なところがあったので、ここでDIの役割をまとめておきたいと思います。

また、ご依頼を頂いていた DIの製作も完了したので、本記事を回路図等の備忘録とします。

私は電気の知識においてはアマチュアですので、勘違いや間違った情報を含んでいるかもしれません(もちろん正確性を高める努力はします)。

月並みですが、本記事を参考にした機材の自作によって発生した事故・損害については自己責任、動けばOKというスタンスでお願いいたします。

DI(ダイレクトボックス)とは?

DIとは『ダイレクトインジェクション(ボックス)』の略です。
基本的には『ディーアイ』と呼びますが、ダイレクトボックスとも言います。
また、『D.I』と表記したりもします。いろいろな宗派がありそうですが、本記事ではDIとします。

さて、冒頭でも述べましたが、DIについて下記のような質問を受けました。

・なぜDIが必要なの?
・DIはエフェクターなの?
・DIを繋ぐと音が良くなるの?

なんでわざわざDIを繋ぐ必要があるのか、確かに謎ですよね。

かくいう私も割と長いこと知りませんでした。
これは私がエレキギターをやっていたことも大きいかもしれません。エレキギターはアンプの音をマイクで拾いますからね。
対してミキサーに直接接続するアコースティックギターやキーボードをやる人であればライブなどで使う機会も多いと思います。
エレキベースはコンサートではアンプとDIを併用して音を出すことが多いので、自前のDIを持っている方も多いですよね。

前置きが長くなりました。
なぜDIが必要かというと、ギターやベースをミキサーに直接繋ぐと、高域の減衰した『ハイ落ち』の音になってしまうからです。
DIを繋ぐことでハイ落ちを防ぎ、楽器本来の音を伝えることがDIの役割というわけです。

ですのでDIは音を変化させるエフェクターではないですし、繋げば音が良くなるというものでもありません。
もちろんDIの品質や個性による音の善し悪し・好みはありますが、積極的に音色や音質を変化させるものではありません。

こういった理由からライブハウスにはDIが常設されています。
DTMや配信をする方にはミキサーやインターフェイスのHi-Zと言ったほうが馴染みがあるかもしれませんね、あれと同じ役割です。
(Hi-ZのZはインピーダンスの『量記号』で、単位は『Ω』です。Hi-Zはハイインピーダンスということですね)

以上、DIについてを簡単に説明しました。
ここまで押さえておけばとりあえずOKなのですが、本記事はDI製作の記事でもありますので、より詳しくDIの役割を見ていきます。

DIの役割をさらに詳しく

ではここから電気的な話も交えながら、DIの役割をさらに詳しく見ていきたいと思います。

インピーダンスの変換(ロー出しハイ受けにする)

先ほど『ギターやベースをミキサーにそのまま繋ぐとハイ落ちの音になる』と述べました。
「ミキサーって楽器を繋ぐように設計されているものじゃないの?」という疑問が聞こえてきそうですね。

実はミキサーはローインピーダンス出力のデバイスを繋ぐように設計されています。楽器で言うとマイクやキーボードがローインピーダンス機器です。
対してエレキギター、エレキベースなどの楽器はハイインピーダンス出力です。

これの何が問題なのかというと、基本的にオーディオなどのアナログ回路は出力インピーダンスを入力インピーダンス以下の値にしないといけません。
ですのでDIでハイインピーダンス出力をローインピーダンス出力に変換する必要があります。

これがロー出しハイ受けと呼ばれるアナログ回路の基本・鉄則です。

インピーダンスとは?

ここまでインピーダンスという単語が何度も出てきました。インピーダンスとは交流信号における抵抗のようなものです。
ではこのインピーダンスがどんな働きをするのでしょうか。下の図をご覧ください。

インピーダンス ロー出しハイ受けをホースと水流で表現

インピーダンスの説明でよく使われる水流での例えですね。水路の太さがインピーダンスの大きさ、水流がそのまま電流(音声信号)です。上図では電流は右に向かって流れます。

上側がギター等をミキサーに直接繋いだ『ハイ出しロー受け』のイメージです。入力側の水路が狭いので水の流れが悪くなり、信号の減衰が発生してしまいます。

対して下側のように入力側のインピーダンスが出力側よりも大きければ、電流や信号の減衰が最小限で済みますこれが『ロー出しハイ受け』の状態です。

もう少し突っ込んで、なぜロー出しハイ受けにする必要があるのかを見てみましょう。
下図は出力機器と入力機器のインピーダンスを決定している箇所です。

インピーダンス図説

出力側 R1の抵抗の値が出力インピーダンス、入力側 R2の抵抗の値が入力インピーダンスとなります。(簡略化していますが、だいたいこのような考え方でOKです)
R1は出力デバイスの最後に、R2は入力デバイスの最初で、かつオペアンプやトランジスタの直前にあることが多いです。

出力デバイスと入力デバイスを接続すると、このR1とR2が分圧回路を形成します。
分圧回路とは、2つ以上の抵抗を使って入力電圧を分割し、所望の出力電圧を得るために利用されます。電圧の計算式は以下です。

$$Vin×\frac{R2}{R1+R2}=Vout$$

入力電圧(Vin)が1V、R1が5k、R2が500kの場合の出力電圧(Vout)は0.99Vとなり、分圧の影響をほとんど受けていません。これがハイ受けロー出しの状態です。

ではR1とR2の値を逆にしたロー受けハイ出しの場合はどうなるかと言うと、出力電圧は0.0099Vまで降下してしまいます。
ちなみにエレキギターの出力電圧、出力インピーダンス、ミキサーの入力インピーダンスがだいたいこのくらいです。

電圧の多少の大小で音質が決定されるものではありませんが、電圧で信号を送る以上、これだけロスが大きいと信号の質に影響が出るのも納得です。

ちなみに、ローインピーダンス入力はノイズが乗りにくい、ハイインピーダンス出力は少ない電流でスピーカーを鳴らせるといったメリットがあります。
ノイズが大敵なミキサーにはローインピーダンス入力が、大きな電流を流せないエレキギターにはハイインピーダンス出力がピッタリですね。

アンバランス接続をバランス接続にする

DIの役割のふたつ目がアンバランス接続のバランス化です。

マイクをミキサーに接続したりレコーディング機器同士を接続する場合は、HOT(ホット)・COLD(コールド)・GND(グラウンド)の3芯のケーブルが主に使用されます
こちらがバランスと呼ばれる方式で、ラインケーブルやマイクケーブルがこれです。
HOT・COLDに音声信号が流れ、GNDはノイズを捨てます。詳しくは後述します。

一方、楽器用のケーブル(シールドとも呼ばれる)は基本的に音声信号が通るホットとノイズが通るグラウンドの2芯のものが使われます。
グラウンドをコールドとしても使用しますが、コールドに流れる信号は使用されません。
オーディオ機器に使用されるRCAも2芯のものが主流ですね。

接続の流れとしては、楽器からのアンバランス接続をDIでバランス接続に変換してミキサーに音声信号を渡します。

なぜこのようなプロセスが必要なのかというと、アンバランスはバランスに比べてノイズが乗りやすいという性質があるからです。
自宅で使用する分にはあまり気になりませんが、ケーブルが長くなればなるほどノイズは乗りやすくなります。
レコーディングスタジオやコンサート会場では何十メートルもケーブルを引き回す必要があるので、ノイズに強いバランスケーブルが必須というわけです。

ではすべてバランスケーブルにすればいいのではと思ったりもしますが、そうすると今度はコストがかかってしまったり楽器や音響機器のコンパクト化が難しくなるといった面もあります。
信号をバランスにするにはトランジスタやオペアンプと、それらを動かす電源が必要になりますからね。

アンバランス→バランスの仕組みとノイズに強くなる理由

バランスがノイズに強い仕組みを見ていきます。

サイン波形の正相と逆相

画像はバランスの音声信号を波形にしたものです。
HOTは元の波形。COLDはHOTの波形を、破線を基準に反転しています。このような場合、「COLDはHOTの逆相」と言えます。

このふたつの信号をミキサーで受け、内部でCOLDの信号を反転させます。HOTと同じ波形に変換するわけですね。
すると全く同じ波形がふたつ重なるので信号は増幅されます。

信号にはもうひとつの性質があります。それは逆相の信号を重ねるとお互いを打ち消すというものです。無音になるというわけですね。
ノイズキャンセリングなどはこの性質を利用しています。

これらを念頭に、ノイズが入った場合を考えます。

サイン波形の正相と逆相
ノイズのイメージ
ノイズの波形はイメージ

HOTとCOLDにノイズが乗っていますが、HOTとCOLDの信号が逆相なのに対し、ノイズは同相となっています。
このあとミキサーの内部処理でCOLDの信号は反転されます。

サイン波形の正相と逆相 ノイズのイメージ。
反転した場合
COLDを反転させた波形

すると画像のように音声信号は同相になり、ノイズは逆相となります。
ミキサー内部ではさらにHOTとCOLDの信号を重ねてひとつにするので信号は増幅され、ノイズは打ち消されるということになります。

すごいですよね。私は初めてこれを知ったとき、とても感動したことを覚えています。

以上、電気的な話も交えながらDIの役割を見てみました。
DIを使うだけならここまで理解する必要はありませんが、自作をするなら知っておいたほうが良いかと思います。

ケーブルの自作も楽しいですよ。
たくさんのケーブルが必要な場合は自作した方が安上がりですし、興味があればチャレンジしてみて下さい。

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DIの種類

さいごにDIの種類と特徴を見ていきましょう。

アクティブタイプ

アクティブタイプは駆動に電源を必要とするタイプです。
電源はミキサーからのファンタム電源か9Vのバッテリーを使用します。

ライブハウスでよく見かける『BOSS DI-1』はアクティブタイプです。最初のDIとしては値段・品質ともに間違いがありません。

dbx ディービーエックス / di1 ダイレクトボックス
created by Rinker

PAなどで数量が必要な場合、DBXもアリだと思います。
私も使ったことがありますが、値段を考えると充分な音質です。

アクティブDIはオペアンプで駆動するものがほとんどですが、オペアンプは安価なのに質が良くて驚きます。
そのためアクティブDIも、安価でもクオリティが高い傾向があります。

パッシブタイプ

パッシブタイプは電源が不要なタイプです。
信号のバランス化にトランスを利用するのですが、オペアンプとは違い音質と値段が比例します。
そのため安価なパッシブDIを買うくらいなら、同価格帯のアクティブDIを買う方が断然いいです。

パッシブで有名なDIは『RADIAL JDI』ですね。

トランスに『Jensen』を使用しています。Jensenはアメリカンな明るいサウンドが特徴で、ビンテージのAPIなどに使われています。

Radial ラジアル パッシブDIボックス JDI
created by Rinker

なかにはトランジスタ(オペアンプ)とトランスを併用しているタイプもあります。
使用するにあたっては電源が必要なため、アクティブタイプに分類されます。

アクティブとパッシブはどちらがおすすめ?

アクティブとパッシブはどちらがおすすめかというと、まずは使用環境が前提です。
電源が取れて、コスパを求めるのであればアクティブDIがおすすめですし、電源が取れない・トランスの音の個性を楽しみたいのであればパッシブDIとなります。

もちろんアクティブ(オペアンプ)にも音の個性はあるので、必ずしもトランスの方が個性的だったり良い音というわけではありません。
自身の予算や使用スタイル、音の好みで決めるのがいいと思います。

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次回は「作り方解説編」をお届けします。
記事が完成次第公開しますので、よろしくお願いいたします。