音楽制作

オーディオ・レコーディング機材の自作で知っておきたいこと【これってオカルト?】

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レコーディング機材の自作を始めてはや半年、学習や実験に割いた時間は優に1000時間を超えてきました。もはや専業並みに没頭しています。

学習時間もこのくらいになると知見もだいぶ貯まってきて、「スタート時にこれらを知っていればなぁ」と思うこともしばしばです。

思えば金銭的にも時間的に遠回りをしました。

という訳で、需要は低そうですがこれから本格的にオーディオ・レコーディング機器の自作を始める初心者が知っておきたいことを、備忘録を兼ねて置いておきます。

これらの音の比較については「ある程度の録音機材を使って比較すること」が前提です。
記憶頼みの比較では主観が入ってしまいますし、そもそも正確に記憶なんてできません。

素子で音は変わる

オーディオ機器は抵抗器やコンデンサ、ダイオードにトランジスタなどなど、たくさんの素子の集合体です。
そしてこれらの種類によって驚くほど音が違います。
(当たり前すぎて書かなくてもいいんじゃないか、とも思いましたがいちおう…)

まずはそれぞれオーディオ用の定番となっている素子から集めてみるといいと思います。
汎用の1円抵抗などは意外と悪くない音が出たりしますが、オーディオ用と比較するとやはりそれなりなので、動作確認に留めるのが良いかと思います。

抵抗器の音質比較の記事なんかも書いたりしましたのでよろしければご覧ください。
いつか他の素子についても書きたいなぁ…。

オーディオ用 抵抗器
【泥沼注意!】オーディオ用抵抗器の音質を比較|機材自作の備忘録 ここ数か月は友人に頼まれてDIの制作に励んでいました。 「DIなんてシンプルな機材、質のいい素子で組めばそれなりになるだろう」と...

回路はシンプルに・余計なものは付けない

回路は可能な限りシンプルに。

配線も無駄な回り道をせず最短距離で美しく仕上げたいところです。
長く引き回せば音の劣化や雑音の原因にもなりかねません。

余計なものは付けない方が音痩せのない明瞭なサウンドになります。例えばLEDを付けるだけでも音は痩せて曇ります。
とは言えLEDは必要な場合も多いですし、素子を省きすぎても野暮ったい音になるので、ちょうどいいさじ加減を見つけるのは難しくも楽しいところです。

またブレッドボードでのテスト時に、回路に必要ないけど挿したままのワイヤーなどは残っていませんか?
たった一本のワイヤーの外し忘れが音痩せの原因になっていて、取り除いたら素晴らしい音になったというのを何度も経験しました。

テスト中に煮詰まったときなど、本当にその素子や配線が必要か見直すと新しい発見があることは多いです。

ハンダでも音は変わる

半信半疑な方も多いかと思いますが、ハンダでも音は変わります。
その変化は微妙なものではなく、素子を交換するのと同じくらいに大きく変化します。
(さらにはハンダ付けの腕でも変わります)

「ハンダ付けの際、素子と素子をしっかりと接触させた上でハンダ付けをすれば音は変わるはずがない」とおっしゃる方もいます。

ですがそのようにハンダ付けしても、音声信号や電流は素子を通過する際に、その素子を固定しているハンダにも流れてまた戻ってきます。
そのくらい「音」というのは外部からの影響を簡単に受けてしまいます。

という訳で、最初からハンダの音色を加味した機材づくりをしなければなりません。
私はブレッドボードのテスト時でも、本番用のハンダを回路に入れるようにしています。
「テストだから」と100均のハンダで仮止めなどしないようにしたいものです。

最初はケスター44を用意すれば間違いはありません。楽器のおいしい中域がしっかりと出ます。
まずはメーター売りをどうぞ。私は機材ひとつにつき1mを目安にします。

こちらはリールです。
業務で大量に使う方用ですが、1ポンドリールはロマンがありますね。

アルミットのように銀の入っているハンダも多いですね。
銀入りのものは音が明るくシャープでやや腰高になる傾向がありますが、アルミットは特にスッキリとした音になります。

ハンダは紹介したものの他にも、まだまだたくさんあります。
気になるものを試してみて、ぜひご自分に合うものを見つけて下さい。

コンデンサの耐圧と音の違い

コンデンサには耐圧というものがあり、耐圧を超えた電圧をかけてはいけないというのはすぐに理解できると思いますが、「耐圧の1/2以下の電圧で使用するのが基本」というのは私もしばらくしてから知りました。

コンデンサには多くの種類があり、同シリーズでも複数の耐圧のラインナップがあったりします。
実はこれ、耐圧が高いほど明るくすっきりとした音になり、低いと重くこもった音になる傾向があります。
(「こもる」というと印象が良くないですが、すっきりしすぎると腰高で希薄な音になるので、こもりも必要な要素です)

ちなみに容量の大小でも音に変化はありますが、耐圧ほどの違いではないように感じます。

電解コンデンサでよく使われるニチコンのFGやKZなどは安くてラインナップも豊富なので、中間の耐圧を軸に数種類買って試してみるのが良いかと思います。

素子の方向性を揃える

素子の方向性を揃えるのも重要です。

エレキ系の楽器やレコーディングのある程度の経験者なら、シールド・ケーブルの方向性を揃えるというのは周知の事実かと思いますが、抵抗器やコンデンサなどの素子も方向性を意識します。

抵抗器は抵抗値の頭を、コンデンサは印字の頭を信号の入力側にします(もちろん無極性の場合です)。

なぜ方向性を揃えるかと言うと、もちろん音に影響するからです。

方向性による音の違いは以下です。

  • 順方向:明るく拡がりのある音
  • 逆方向:重心が下がって迫力が増すが、音抜けは落ちる

素子の方向性は順方向で配置するのが基本かと思いますが、サウンドが軽い場合に一部の抵抗器を逆方向にしてみると、いい結果になったりします。

配線材の種類や皮膜に注意

ここまで来ると配線材で音が変わるのは「それはそうだろうな」と思われることでしょう。
ですのでブレッドボード用のジャンパーワイヤなどは動作確認に留めて、音決めは本番用の配線材で行うべきです

基板の配線材

まず基板用の配線材ですが、錫メッキ軟銅線の0.5・0.6mmあたりがよく使われると思います。

これはこれでいいのですが、配線の材質や太さ・メッキや皮膜の有無でも音は変わるので、覚えておくと製作時の引き出しになります。

そんなにサンプルは多くないですが、配線材による音の特徴については以下です。

  • 太さ:細いとシャープだが軽くなる。太いと迫力が出るがキレがなくなる
  • 皮膜:皮膜があると暗く重くなる傾向。音抜けは皮膜なしに劣る
  • 錫メッキ:メッキがあると明るくて印象が良いが、裸線よりも音像が狭く感じる

こんな印象ですね。

配線材の太さ

配線材は細いと音像のはっきりした、キレ・繊細さのあるサウンドになります。
ギターではストローク時の各弦の分離が良いです。
ただしあまり細いと音が軽くなります。

逆に太いと音像が大きく量感のあるサウンドになります。ミッドも出て圧縮感が気持ちいいですね。
迫力が出る一方で、音がブーミーになりがちなので注意したいところ。
ベースなどは特に大きく影響を受けます。

弦楽器の経験者であれば、配線材の太さによる音の違いは「弦の太さによる音の違い」と考えるとイメージしやすいと思います。

配線材の皮膜について

ユニバーサル基板に配線材を這わせる場合、皮膜があるものを使うことは少ないと思いますが、皮膜の有る無しでもずいぶん音が変わるので、あえて熱収縮チューブなどを使ってみるのも面白いかもしれません。

機材製作をするなら他にも使いどころがあるので持っていて損はないです。

基本的に皮膜があると音が重くなるのですが、不思議と場所によっては音がスッキリとする場合もあります。

配線材のメッキについて

メッキも有る無しで音質差があるかと思い、試しに裸銅線を使ってみたところ、錫メッキより地味ではあるものの無理をしている感じがなく、よりフラットに聞こえました。

メッキ銅線は前に出てくる明るい音なので演奏していて気持ちいいのですが、録音されたものを聞き返すと中高域がやや誇張された音に感じます。

自作の高周波ワニス

非メッキだと長期的に見て錆びるのが怖いので、自作の高周波ワニス(画像左)を塗って銅線をコーティングしました。こんなことですら微妙に音が変化してしまいます。
作り方は簡単で、ラッカーうすめ液(シンナー)に発泡スチロールを入れるだけです。

ちなみにエナメル線(UEW)も購入したのですが、コーティングを除去するのが大変すぎるのでテスト未実施です。

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こんな感じで複数試した結果、いまは裸銅線の0.7mmに落ち着いていますが、複数の太さの配線材を混ぜるなどして理想の音に近づけるよう努力しています。

シールドケーブル

オーディオ機器の空中配線やエレキギターの内部配線にも使われますね。ケーブルが絶縁されているのでノイズを拾いやすい木材内部や、複数の線を束ねたい箇所などにも便利です。

機材製作であればBeldenの8503がおすすめです。
ライン・マイクケーブルのスタンダードのBelden 8423が少しスリムになったような音で、楽器のおいしい中域がグッと出てきます。

芯線がしっかりしているので皮膜を剥くときに失敗しにくい・細いので取り回しが楽などなど欠点が見当たりません。
皮膜の色も複数あるので極性の見分けも付けやすいです。

他によく使用される国産のMogamiは「ドンシャリ気味なクールな音」という印象です。

配線材だけでもこれだけ音の違いがあるので、機材製作はすぐに迷宮入りしてしまいます…。

エージングはしっかりと

さいごにエージングについてです。

オーディオにおけるエージングとは、実際に機材や素子に音声信号や電圧をかけて慣らすことです。
新品の素子はたいてい寝ぼけた音がするもので、最初は2時間もエージングするとびっくりするくらい音が変化するものです。
ですので未エージングの素子で音作りをしてしまうと、数時間の使用で別物の機材になってしまいます。

エージングをしていくと開放感のある、大きな音像に変わっていく傾向があります。ですが音が軽くなる傾向もあり、「未エージングの方が良かった」ということも多く悩ましい問題です。

エージングにかける時間は50~100時間あたりから安定して使える音になってきますが、素子によっては100時間を超えたあたりからいきなり低音が出るようになったりするので、「〇〇時間やればOK」というように断言することができません。

この記事の執筆時点では最長で300時間程度のエージングをしましたが、まだまだ音は変化し続けています。
エージングに数百時間かける方もいるようですし、私も1000時間あたりまでは様子を見ようかと思います。

さいごに:やっぱりオカルトとは思えない

オカルトと思われがちなオーディオの世界ですが、しっかりと検証すれば明らかに音の変化が分かります。

「聴いてもやっぱり違いがよく分からない」という方は、録音比較をしていなかったりモニター環境の見直しが必要という場合も多いのではないでしょうか。

オカルトと決めつけて毛嫌いせず、少しでも多くの方にぜひ、この深い泥沼の世界を楽しんで頂きたい所存です。

商品の紹介はAmazonのリンクを貼りましたが、Garrett Audio(ギャレットオーディオ)さんならオーディオ用の素子も多く扱っているので便利です。